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菅政権の看板政策「携帯料金値下げ」は、可能か?

菅氏は電波利用料の見直しについて、事業者は「電波を借りて収益を上げているから、そこまで踏み込まなければならない」と言明。「もともと電波は国民の財産だ。その財産の提供を受けてサービス・事業を展開している。大手3社はずっと9割の寡占状況で競争が働いていない」と持論を展開し、「特に容量の多い部分はものすごい利益を上げている。私は4割は下げられるといろいろな方から聞いた上で提案している。大容量のところをこれからやろうと思っている」と述べた。(Bloomberg)

1 電波利用料とは

総務省のホームページによれば「電波利用料ついては、良好な電波環境の構築・整備に係る費用を、無線局の免許人等の方々に公平に分担していただく、電波利用のための共益費用として、電波を利用する皆様のご理解とご協力を得て納付いただいております。」とある。電波が混信しないように監視する電波監視や、使い勝手の良い周波数に出来るだけ沢山の無線局を利用可能とするための技術開発などの経費を、電波の利用者で負担する、つまりマンションの「共益費」のようなものだ。例えば地上波のディジタル化への移行には「電波利用料」が使われた。

2 懲罰的な課税ではないか
このような「電波利用料」制度の目的からみて、「電波を借りて収益を上げている」(のにその利益を料金引き下げに還元しない)から、電波利用料を引き上げる、のは少々乱暴ではないか。特定の企業を狙い撃ちして儲け過ぎだから、といって税金を上げるのと同じではないか。横並びで法人税率を上げるならともかく、法治国家の首相としては恥ずかしい発言だ。仮に携帯料金が高いとしたら、他の方法で引き下げるべきだ。

3 なぜ下がらないのか

別添の総務省の調査を見れば、世界の主要都市の中ではNYについで高い。利用実態を基にしたモデルの比較では、NY(11,272円)、ソウル(11,019円)とほとんど変わらないが、東京(11,805円)が一番高くなり、パリ(7,755円)のおよそ5割増し(月20GB端末込でシェア1位のMNOを比較した場合)となっている。(総務省「電気通信サービスに係る内外価格差調査:令和元年度より」菅総理のいうように引下げる余地は有りそうだ。

 フランスはなぜ安いのか。フランスは、MNO3社体制であったところに、第4のMNOであるFree社が2012年に参入し、市場全体が価格競争に直面することになった。値下げの「鍵」は「競争」であることがわかる。
 日本でも菅官房長官の号令でこれまでも競争政策が行われてきた。MVNO(格安スマホ)だ。MVNOは、ドコモなどMNO3社から回線を借りて事業を行っており、格安にするため通信速度やサービスを犠牲にせざるを得ない。そのため携帯電話契約数に占めるシェアは1割程度に留まっている。さらに4社目のMNOとして楽天が参入したが、設備投資の遅れなどで苦戦しており、現時点では、料金引下げ競争に至っていない。

4 競争政策で下げる

 フランスの例を見れば明らかだが、MNO新規参入による競争が、携帯料金の引き下げに有効だ。懲罰的な電波利用料引上げをちらつかせるなど、法治国家としてあり得ない。競争もないままそんなことをすれば、かえって携帯料金の値上げにつながるであろうし、5Gの普及にも影響が出てしまう。楽天が軌道に乗り、競争原理が働けば、携帯料金は下がる。
5 報道への圧力
 もう一点懸念がある。安倍政権は電波利用料の値上げや周波数オークションの実施をちらつかせ、TVの報道に圧力をかけてきた。今回、放送局を名指しこそしていないが、これまでの経緯からみて、報道への牽制をした可能性もある。
 一国の首相の発言は重い。焦らず、じっくり構えてもらいたいものだ。