籾井NHK会長の降板が各紙で報道され、後任者の名前も上がっている。籾井会長の最大の遺産は、視聴者が、受信料や「公平・公正」な報道といった「公共放送」のあり方を考える機会を作ったことではないか。
1 自ら語る籾井会長の実績
私は、籾井会長ご本人に、任期3年間の実績は何だと思うか、との質問を行った(総務委員会(11月15日))。会長は、①視聴率の上昇(上半期のゴールデンタイムの平均世帯視聴率が全放送局中トップ)、②リオパラリンピックのネットライブ配信、③国際放送の強化、④放送センターの建替え、⑤受信料支払い率80%達成、⑥8Kに加えて4K放送の実施を決断、⑦ネットによる同時送信の推進、などをあげた。ネット配信については、私も評価したい。ネットによる放送番組の同時配信が、実現へ動きつつあるのも、会長の腕力によるところが大きいのではないか。
2 大胆な人事
今年の役員人事で、「NHKの職員といえどもサラリーマン。忖度は企業や組織には普遍的に存在している」と発言し、官邸寄りと言われていた幹部を更迭した点も評価できる。報道によれば「クローズアップ現代」の国谷キャスターの降板もこの幹部が決めたとされる。これを機に、NHK内の風通しが良くなったとも言われ、公平・公正な報道が増えたとの評価もある。
これだけを見れば、次期会長の資格があるかとの私の質問に対し、本人が「ないとすれば今、会長をやっていられないのではないか」と答えたのも肯ける気がする。
3「公共放送」を理解せず
しかし、①「政府が『右』と言っているものを『左』と言うわけにはいかない」「原発報道は公式発表で」などと発言、②私的なゴルフで使ったハイヤーの代金をNHKに立て替えさせるなど国会で追及を受け、3年連続で予算の全会一致が崩れた(③)。これ以外にも様々な問題を起こして、経営委員会から3回も注意を受けている。
NHKは国営放送として運営された戦前の反省にたって、「営利を目的とせず、国家の統制からも自立して、公共の福祉のために行う」、「受信料によって運営され」る公共放送(NHKホームページ)と自らを位置づけている。公共放送として、「不偏不党」「公平・公正」な放送が求められ(①)、その結果として予算の国会での全会一致承認が求められてきた(③)。当然のこととして受信料はムダなく業務のみに使われなければならない(②)。籾井会長はこうした「公共放送」のあり方を最後まで理解せず、民間ワンマン経営者の感覚で運営にあたったことが、問題を引き起こした原因ではないか。
籾井会長は、放送番組のネット配信の推進や受信料収入の確保などのプラス面がある以上に、「公共放送」に対する信頼を破壊したマイナス面が大きく、退任もやむを得ないであろう。
4 籾井会長の遺したもの
籾井会長の最大の遺産は、「公正中立な報道」や「受信料のあり方」など「公共放送」について、改めて我々に考えさせてくれた点ではないか。
次期会長は、受信料制度の見直しを行わなければならない。「公共放送」を理解し、その信頼を取り戻すことが、一層求められる。「公共放送とは何か」、原点にたった運営を求めていきたい。